のけ物語
STORY LAB
第10話

中学校編・第10話「琴似パトスと消去法の運命」

7分で読める ♪ 10:00

Wooは、何をやるバンドなのか。結成したはいいものの、肝心の曲が決まっていなかった。

中学校編・第10話「琴似パトスと消去法の運命」

THE YELLOW MONKEYとの出会い

〜消去法で出会った、運命〜

Wooは、何をやるバンドなのか。

結成したはいいものの、肝心の曲が決まっていなかった。

オリジナル? 無理だ。 まだ何も作れない。

つまり、コピーバンドだ。 誰かの曲をコピーする。

問題は、誰の曲をやるか。

その前に、ひとつ話しておかなければならないことがある。

琴似パトス事件。

同級生が、ライブハウスでライブをやるという。 琴似パトス。 札幌のライブハウスだ。

中学生ながらに、本格的なライブハウスで。 すごい。

サッカー部全員で見に行くことになった。

その同級生というのが、何を隠そう、

一緒に万引きをしたリョータだった。

あのリョータ。 大型デパートで一緒に捕まったリョータ。 卒業まで気まずくなって、喋らなくなったリョータ。

あいつ、バンドやってたのか。

本格的なライブは、初体験だった。

ライブハウスに入る。 暗い。 ステージ上では、準備的なことをしている。

客席には、中高生がそわそわと集まっている。 まばらに見える、各高校の制服。

なんだこの空気。 なんか、ピリピリしてる。 でも、ワクワクもしてる。

そわそわ。

そわそわ。

そして。

1、2、3、4!

照明がビカーッ! 爆音がドカーン!

うわ。 うわうわうわ。

なんだこれ。

客席が、一瞬でカオスになった。

みんながサークルを作っている。 手をつないで、回っている。

そして、何をきっかけにしたのか、ぶつかり合っている。

巻き込まれる俺。

何が行われているのか、分からない。

喧嘩ではなさそう、ということだけは分かった。

横を見ると、一緒に来た右サイドバックのソメちゃんがいた。

ソメちゃんは、耳に指を突っ込んで走り回っていた。

……え?

耳に指を突っ込んで、走り回っている (゚o゚;;)

カオスすぎる。

ソメちゃんは、決してライブハウスから出ていくことはなかった。 逃げない。 でも、曲が始まると、耳に指を突っ込んで走り回る。

昭和の漫画すぎる。

対照的に、イケイケな学生たちはぶつかり合っている。

ソメちゃんは耳を塞いで走っている。

冷静にステージを見ているのは、俺だけではないだろうか。

ステージ上のリョータが、ジャンプをする。 かっこいい動きで、パフォーマンスをする。

とにかく、かっこよかった。

普段の僕は、19やJ-POPを聴いている。 いいとこB'z。 TM Revolutionも好きだ。

でも、リョータがやっていたのは、全然違う世界だった。

ドラゴンアッシュ。 ハイスタンダード。 スネイルランプ。

僕にとっては、激しい曲のオンパレード。

知らない曲ばかりだった。 でも、体が反応していた。

これが、ライブか。

これが、バンドか。

初体験だった。

そんな衝撃を胸に、僕らは会議を開いた。

Woo、何やる会議。

場所は、パトスの横にある玉光堂という楽器店。 楽譜売り場の前で、会議は行われた。

まず、GLAYとL'Arc〜en〜Cielは除外。

流行りすぎていた。

(みんなやってるのは、なんか嫌だった)

その次に来るであろうLUNA SEA。 難しそうなので除外。

他にもビジュアル系はあったが、それは僕らにとっては論外だった。

アウト・オブ・眼中。

GLAY、ダメ。 ラルク、ダメ。 ルナシー、ダメ。 ビジュアル系、ダメ。

じゃあ何やるんだ、俺たち (゚o゚;;)

そこで、名前だけ聞いたことがあるバンドが浮上した。

THE YELLOW MONKEY。

曲は、一曲も知らなかった。

でも、名前は聞いたことがある。 なんかカッコよさそう。

消去法で残った、このバンド。 とりあえず、バンドスコアを見てみることにした。

ペラペラとめくる。 みんなで覗き込む。

……いけそうな感じがした。

直感だ。

まず、シンセサイザーがそんなに入っていない。 これが大事だった。

シンセが多いと、4人じゃ再現できない。 でもイエモンは、ギター、ベース、ドラム、ボーカル。 僕らと同じ編成だ。

アルバム【8】のバンドスコアを手に取った。

「よし、これ買おう」 「で、GEOでアルバム借りて」 「みんなでダビングして」 「覚えて、今度演奏してみよう」

そんな不純な動機で、

THE YELLOW MONKEYのコピーバンドが生まれた。

消去法だった。 流行りを避けた結果だった。 難易度で選んだ結果だった。

でも、これが運命の出会いだった。

この時の僕は、まだ知らなかった。 このバンドが、僕の人生をどれだけ変えることになるか。

消去法で出会った、運命。

人生って、そういうもんなのかもしれない。

さて、この頃、僕はすごい機材を手に入れた。

父親の知り合いが、ある機械を譲ってくれたのだ。

MTR。

MTR、何ぞや。

マルチトラックレコーダーの略である。

簡単に言うと、「音を重ねて録音できる機械」だ。

1チャンネル目にドラムを録音して、
2チャンネル目にベースを録音して、
3チャンネル目にギターを録音して、
4チャンネル目にボーカルを録音する。

それを全部重ねて再生すると、バンドの音になる。

つまり、一人でバンドができる、魔法の機械だった。

正しい使い方は、分からなかった。 説明書? 読まない。

とりあえず、友達と遊んでみた。

1チャンネル目に、誰かが喋る。 2チャンネル目に、別の誰かがツッコミを入れる。

「今日さー」 「うん」 「学校でさー」 「知らんがな」

なにこれ、めっちゃ面白い (^ ^)

違うチャンネルに、鼻歌でBGMを入れてみたりもした。

友達が1チャンネル目に効果音を入れて、 2チャンネル目に別の人がストーリーを語る。

みんなで声だけでスターウォーズのCMを作ったりしていた。

完全に、おもちゃとして遊んでいた。

(たぶん、正しい使い方ではない)

そして僕は、もうひとつすごいマシーンをゲットする。

YAMAHA QY100。

これは、ゲーム感覚でリズムやシーケンスを作れる機械だった。

ドラムのパターンを打ち込む。 ベースラインを打ち込む。 ピアノの伴奏を打ち込む。

それを再生すると、バンドの伴奏が流れる。

込み入ったゲームボーイをやる感覚。

黙々と、覚えていった。

QY100で作った伴奏を、MTRに取り込む。 その上に、ギターを重ねる。 その上に、歌を重ねる。

一人で、曲が作れる。

僕の作曲人生が、本格的に始まった。

バンド活動は、4人集まらないといけない。 スケジュールを合わせないといけない。 スタジオを予約しないといけない。

でも、MTRとQY100があれば。

いつでも僕は、バンド活動ができる気分だった。

一人で。

部屋で。

好きな時間に。

これは、あの三角屋根の秘密基地と同じだった。

一人で完結する、小さな宇宙。 誰にも邪魔されない、僕だけの世界。

妄想で世界を救っていた7歳の僕が、 今度は音で世界を作り始めた。

Woo、始動。

消去法で選んだTHE YELLOW MONKEY。

おもちゃとして遊んだMTR。

ゲーム感覚で覚えたQY100。

全部が、僕の音楽人生の土台になった。
中学校編・第10話「琴似パトスと消去法の運命」 —— 完

SCOUT WINDOW

音楽をやっているあなたへ。

Mash Room Studioは札幌から新しい才能を探しています。デモ・音源、聴かせてください。

デモ・音源を送る