僕の人生で、一番楽しみにしていたこと。
それは、ゲンちゃんと家族でキャンプに行くことだった。
ゲンちゃん。
お父さんの親友。
大人なのに、「ゲンちゃん」と呼んでいい人だった。
子供の僕が「ゲンちゃん」って呼んでも、怒らない。
むしろ嬉しそうにする。
そういう人柄だった。
ゲンちゃんは、とにかく周りを明るくする人だった。
一緒にいると、空気が変わる。
笑いが増える。
楽しくなる。
僕たち子供の楽しませ方も、天才的だった。
(お父さん、ごめん)
キャンプには、たまに僕の同級生も一緒に連れて行ってもらえた。
これがまた、最高だった。
キャンプ場に向かう車の中。
窓の外を流れる景色を見ながら、僕の妄想は止まらない。
あの山の向こうには何があるんだろう。
あの川を辿っていったら、どこに着くんだろう。
もしかしたら、秘密の村があるかもしれない。
友達と「あの雲、恐竜に見えない?」とか言い合う。
見える見える、と盛り上がる。
ゲンちゃんが「俺にはプリンに見える」とか言って、また笑う。
キャンプ場に着いたら、さらに妄想は加速する。
テントを張る場所を決めるだけで、冒険だった。
「ここは敵に見つかりにくい」とか言って。
何の敵だよ。
でも関係ない。
僕らの世界では、常に何かと戦っていた。
焚き火を囲んで、星を見上げて、
ゲンちゃんが面白い話をして、
お父さんがたまにボソッとツッコんで、
お母さんが笑って、
友達と「夜更かし最高!」って目を合わせて。
全部が、キラキラしていた。
でも、僕の中でキャンプの醍醐味は、実は別のところにあった。
目一杯楽しんだ後の、帰りの車。
あの雰囲気が、たまらなく好きだった。
疲れてる。
でも満たされてる。
窓の外は暗くなってきて、車内は静かで、
誰かがウトウトし始めて。
そんな時、ゲンちゃんが言う。
「温泉寄って帰ろうか」
伝わってほしい。
夜の温泉。
露天風呂。
外は寒い。
でも湯船はあったかい。
星が見える。
湯気が上がる。
誰も何も喋らない。
ただ、最高だった。
子供ながらに、「生きてるって最高だな」と思った。
冬になると、キャンプはスキーに変わった。
スキー場。
あの独特の空気感。
リフトに乗って上に行く時の高揚感。
寒い。
でも楽しい。
ゲレンデにはずっと音楽が流れていた。
「ロマンスの神様」が何回流れたか分からない。
たぶん30回くらい聴いた。
でも関係ない。
スキー場では、広瀬香美がBGMなのだ。
それが正しい。
しかし、ナイターになると変わった。
夕方を過ぎて、ライトが灯る頃。
ゲレンデの雰囲気が、ガラッと変わる。
流れてくる音楽も、変わった。
外国の曲。
英語の歌詞。
聴いたことのないメロディ。
大人っぽくて、ちょっと切なくて、でもカッコいい。
ナイターの、あの瞬間だった。
光る雪景色。
ナイターの照明に照らされて、ゲレンデがキラキラしていた。
体は凍えるほど寒い。
でも、みんなでリフトに乗って、また上へ行く。
寒いのに、帰りたくなかった。
この時間が、ずっと続けばいいと思った。
光と、雪と、音楽と、家族と、ゲンちゃん。
何もかもが、最高だった。
そして、帰り道。
車に乗り込んだ瞬間、眠気が襲ってくる。
もう、抗えない。
目を閉じる。
意識が遠くなる。
でも、不思議と怖くなかった。
すごく幸せな気持ちだった。
夢うつつの中で、車の揺れを感じる。
誰かの小さな話し声が聞こえる。
あったかい。
安心する。
そして。
ピーピーピー。
バックで駐車場に入る音。
目を開けると、家に着いている。
楽しかった1日が、終わる。
ちょっと寂しい。
でも、満たされている。
最高の帰り道だった。
あの時間をくれて、ありがとう。
……さて。
ここまで、いい話をしてきた。
ロマンチックな思い出を語ってきた。
でも、ひとつだけ、どうしても話しておかなければならないことがある。
その頃、母親は「人間ポンプ」にハマっていた。
人間ポンプとは何か。
水を飲んで、口から噴水みたいに出す芸のことだ。
宴会芸の定番。
母は、それを習得しようとしていた。
なぜ。
知らない。
今でも分からない。
ある日、母は言った。
「金魚でやってみる」
人間ポンプの上級技として、金魚を飲み込んで出すというものがあるらしい。
飲み込むふりをして、口の中に留めておいて、ポンと出す。
母は、それに挑戦しようとしていた。
やめてほしかった (゚o゚;;
しかし、母は止まらなかった。
金魚を口に入れる。
家族が見守る。
さあ、出すぞ、というその瞬間。
……。
普通に飲んだ。
出すはずが、ゴクンといった。
「え、飲んだ!?」
「今の飲んだよね!?」
「金魚!!金魚!!」
僕は呆然としていた。
お母さんの中に、金魚がいる。
その後どうなったかは、あんまり覚えていない。
たぶん、大丈夫だったんだと思う。
お母さん、今も元気だし。
でも、あの時の家族の慌てっぷりは、忘れられない。
母の金魚事件。
どっちも、大事な家族の記憶 (^ ^)
何が起きても、笑える。