のけ物語
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第3話

幼少期編・第3話「ゲンちゃんと夜の温泉」

6分で読める ♪ 04:45

ゲンちゃん。お父さんの親友。大人なのに、「ゲンちゃん」と呼んでいい人だった。

幼少期編・第3話「ゲンちゃんと夜の温泉」

最高のキャンプ

〜僕の人生で一番楽しかったこと〜

僕の人生で、一番楽しみにしていたこと。

それは、ゲンちゃんと家族でキャンプに行くことだった。

ゲンちゃん。

お父さんの親友。

大人なのに、「ゲンちゃん」と呼んでいい人だった。

子供の僕が「ゲンちゃん」って呼んでも、怒らない。

むしろ嬉しそうにする。

そういう人柄だった。

ゲンちゃんは、とにかく周りを明るくする人だった。

一緒にいると、空気が変わる。

笑いが増える。

楽しくなる。

僕たち子供の楽しませ方も、天才的だった。

ゲンちゃんといると、自分の父親がクールに見えた。

(お父さん、ごめん)

キャンプには、たまに僕の同級生も一緒に連れて行ってもらえた。

これがまた、最高だった。

キャンプ場に向かう車の中。

窓の外を流れる景色を見ながら、僕の妄想は止まらない。

あの山の向こうには何があるんだろう。

あの川を辿っていったら、どこに着くんだろう。

もしかしたら、秘密の村があるかもしれない。

友達と「あの雲、恐竜に見えない?」とか言い合う。

見える見える、と盛り上がる。

ゲンちゃんが「俺にはプリンに見える」とか言って、また笑う。

車の中から、もう楽しい。

キャンプ場に着いたら、さらに妄想は加速する。

テントを張る場所を決めるだけで、冒険だった。

「ここは敵に見つかりにくい」とか言って。

何の敵だよ。

でも関係ない。

僕らの世界では、常に何かと戦っていた。

焚き火を囲んで、星を見上げて、

ゲンちゃんが面白い話をして、

お父さんがたまにボソッとツッコんで、

お母さんが笑って、

友達と「夜更かし最高!」って目を合わせて。

全部が、キラキラしていた。

でも、僕の中でキャンプの醍醐味は、実は別のところにあった。

帰り道。

目一杯楽しんだ後の、帰りの車。

あの雰囲気が、たまらなく好きだった。

疲れてる。

でも満たされてる。

窓の外は暗くなってきて、車内は静かで、

誰かがウトウトし始めて。

そんな時、ゲンちゃんが言う。

「温泉寄って帰ろうか」

この一言のワクワク感、伝わるかな。

伝わってほしい。

夜の温泉。

露天風呂。

外は寒い。

でも湯船はあったかい。

星が見える。

湯気が上がる。

誰も何も喋らない。

ただ、最高だった。

疲れた体に、お湯が染みる。

子供ながらに、「生きてるって最高だな」と思った。

冬になると、キャンプはスキーに変わった。

スキー場。

あの独特の空気感。

リフトに乗って上に行く時の高揚感。

寒い。

でも楽しい。

ゲレンデにはずっと音楽が流れていた。

ひたすら、広瀬香美。

「ロマンスの神様」が何回流れたか分からない。

たぶん30回くらい聴いた。

でも関係ない。

スキー場では、広瀬香美がBGMなのだ。

それが正しい。

しかし、ナイターになると変わった。

夕方を過ぎて、ライトが灯る頃。

ゲレンデの雰囲気が、ガラッと変わる。

流れてくる音楽も、変わった。

外国の曲。

英語の歌詞。

聴いたことのないメロディ。

大人っぽくて、ちょっと切なくて、でもカッコいい。

外国の曲を初めて意識したのは、スキー場だったかもしれない。

ナイターの、あの瞬間だった。

光る雪景色。

ナイターの照明に照らされて、ゲレンデがキラキラしていた。

体は凍えるほど寒い。

でも、みんなでリフトに乗って、また上へ行く。

寒いのに、帰りたくなかった。

この時間が、ずっと続けばいいと思った。

子供ながらに、すごくロマンチックな記憶。

光と、雪と、音楽と、家族と、ゲンちゃん。

何もかもが、最高だった。

そして、帰り道。

車に乗り込んだ瞬間、眠気が襲ってくる。

もう、抗えない。

目を閉じる。

意識が遠くなる。

でも、不思議と怖くなかった。

すごく幸せな気持ちだった。

夢うつつの中で、車の揺れを感じる。

誰かの小さな話し声が聞こえる。

あったかい。

安心する。

そして。

ピーピーピー。

バックで駐車場に入る音。

これが、終わりの合図だった。

目を開けると、家に着いている。

楽しかった1日が、終わる。

ちょっと寂しい。

でも、満たされている。

最高の帰り道だった。

ゲンちゃん、お父さん、お母さん。

あの時間をくれて、ありがとう。

……さて。

ここまで、いい話をしてきた。

ロマンチックな思い出を語ってきた。

でも、ひとつだけ、どうしても話しておかなければならないことがある。

人間ポンプ事件。

その頃、母親は「人間ポンプ」にハマっていた。

人間ポンプとは何か。

水を飲んで、口から噴水みたいに出す芸のことだ。

宴会芸の定番。

母は、それを習得しようとしていた。

なぜ。

知らない。

今でも分からない。

ある日、母は言った。

「金魚でやってみる」

……え?

人間ポンプの上級技として、金魚を飲み込んで出すというものがあるらしい。

飲み込むふりをして、口の中に留めておいて、ポンと出す。

母は、それに挑戦しようとしていた。

やめてほしかった (゚o゚;;

しかし、母は止まらなかった。

金魚を口に入れる。

家族が見守る。

さあ、出すぞ、というその瞬間。

……。

飲んだ。

普通に飲んだ。

出すはずが、ゴクンといった。

家族、大パニック。

「え、飲んだ!?」

「今の飲んだよね!?」

「金魚!!金魚!!」

僕は呆然としていた。

お母さんの中に、金魚がいる。

その後どうなったかは、あんまり覚えていない。

たぶん、大丈夫だったんだと思う。

お母さん、今も元気だし。

でも、あの時の家族の慌てっぷりは、忘れられない。

ゲンちゃんとのロマンチックなキャンプの思い出と、

母の金魚事件。

どっちも、大事な家族の記憶 (^ ^)
家族って、最高だ。

何が起きても、笑える。
幼少期編・第3話「ゲンちゃんと夜の温泉」 —— 完

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