僕の妄想力は、日々進化していた。
三角屋根の秘密基地で「設定を作る遊び」を覚えた僕は、次のステージに進んでいた。
人形遊び。
といっても、大量の人形があったわけじゃない。
ヒーローの人形が、ひとつ。
たったひとつ。
でも、永遠に遊べた。
なぜなら、設定は無限に作れるから。
今日のこのヒーローは、記憶をなくしている。
明日のこのヒーローは、実は双子の弟。
明後日は、敵に洗脳されてる。
世界観は関ヶ原くらい広がった。
友達に「まだそれで遊んでるの?」と言われたことがある。
うん、遊んでる。
だって関ヶ原の戦い、まだ終わってないから。
……伝わらなかった (^ ^)
僕の家は、山の中のログハウスだった。
周りは坂道しかない。
平らな道?
ない。
そんなある日、スケボーを買ってもらった。
嬉しかった。
めちゃくちゃ嬉しかった。
テレビで見たことある。あのカッコいいやつ。
僕は早速、坂の上に立った。
傾斜、結構ある。
でも関係ない。
だってスケボーってこうやって乗るものでしょ?
乗った。
滑り出した。
速い。
速い速い速い。
……あれ、これ止まり方知らないな (゚o゚;;
風が顔に当たる。
景色が流れる。
これ、映画だったらカッコいいシーンだと思う。
でも僕の頭の中は、
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
しかなかった。
次の瞬間、僕は判断した。
あそこ、草むら、柔らかそう。
あそこに転がろう。
転がった。
ゴロゴロゴロゴロ。
……。
セーフ (´-`)
奇跡的にケガはなかった。
運動神経が良かったのか、それとも草むらが優しかったのか。
たぶん両方。
スケボーは、その日から置物になった。
(7歳、学ぶ)
当時、幽☆遊☆白書が流行っていた。
主人公の浦飯幽助が使う必殺技、霊丸(レイガン)。
指先から霊気を発射するやつ。
あれが撃ちたかった。
みんなで「レイガン!」って言いながら遊んでた。
でも当然、撃てない。
だって人間だから。
そんなある日、ちょっと年上の近所の子が、僕に近づいてきた。
「……なあ、レイガンの撃ち方、知りたい?」
え、知りたい。
めちゃくちゃ知りたい。
その子は、内緒話みたいな声で言った。
「いいか、まずレイガンのポーズを作れ」
人差し指を立てて、親指を立てる。
銃の形。
「そしたら、もう片方の手でその指を包むんだ」
包んだ。
「それを……30分間、温めろ」
「30分温めたら、霊気が溜まる。そしたら撃てる」
マジか。
マジか。
僕は信じた。
完全に信じた。
だって年上の子が言ってるんだもん。
その日から、学校帰りの30分間、僕はずっとレイガンを温めていた。
右手で銃の形を作って、左手で包む。
歩きながら、ずっと。
家までの道のり、約30分。
完璧だった。
そして、家に着いた。
30分、経った。
霊気、溜まったはず。
僕は静かに、左手を外した。
レイガンのポーズ、完成。
狙いを定める。
……。
家? 壊れたら怒られる。
木? なんか関係ない木を撃つの、かわいそう。
空? なんか違う。
僕は、レイガンを構えたまま、固まった。
撃ちたい。
でも撃つ場所がない。
5分くらい悩んだ。
結局、撃てなかった (゚o゚;;
行き場を失って消えた。
たぶん。知らないけど。
僕の家は、両親が共働きだった。
夕方5時。
外で遊んでいると、あちこちから声が聞こえてくる。
「はじめちゃーん、ごはんよー」
「ともきー、帰っておいでー」
ひとり、またひとり。
みんな、名前を呼ばれて帰っていく。
お母さんが夕飯を作って待っている家に。
あったかい光が漏れている家に。
僕は、呼ばれない。
だって、家には誰もいないから。
……。
でも、寂しいとは思わなかった。
いや、ちょっとは思ったかな。
うん、ちょっとだけ (´-`)
オレンジ色の空。
僕、ひとり。
でも、僕にはやることがあった。
妄想。
みんなが帰った後の公園は、僕だけの世界になった。
ブランコは宇宙船になった。
砂場は古代遺跡になった。
滑り台は、敵の要塞になった。
ひとりの時間が、僕の妄想力を育てた。
僕は「物語を作る人間」にはならなかったかもしれない。
あの寂しさが、全部、力になった。
僕は一人っ子だ。
両親は、僕をとても大事に育ててくれた。
共働きで忙しかったはずなのに、休みの日はいつも一緒にいてくれた。
夕方5時に呼ばれなかったこと、今は全然恨んでない。
だって、あの時間があったから、今の僕がいる。
レイガンは撃てなかったけど。
ひとりの時間が、僕の武器になった。